萬福寺前住職 佐々木 正

 江戸時代の篤信の念仏者(妙好人)だった、三河のお園さんの言葉です。 

 ある婦人が訪ねてきて、「自分はいくら聞法しても、心の中の不安がなくならない」と訴えたとき、「この言葉を言い続けてみなさい」とアドバイスします。お園さんの言うとおりに三日三晩言い続けて、心の中の不安が取れなかったその婦人は、またお園さんを訪ねて「言い続けても、いっこうに不安がなくなりません」と訴えた。そのときお園さんは「おさしつかえなし、ご注文なし」と言った。婦人は「それでも心の中は、なんのへんてつもありません」と言う。そのときまた「おさしつかえなし、ご注文なし」と、お園さんが力強く言った。その言葉を聞いた婦人は、ハッと気づいて「ありがとうございました」と、顔を輝かして帰路についた。このようなエピソードが伝わっています。

 私たちの不安の奥には、絶対に変更不可能な事実を「なんとかしたい」という欲求が隠されていないでしょうか。事実は一点一画も変えることができない。その事実を受容する〈知恵〉。そこに「念仏申す」ことの核心があることを、お園さんは教えてくれています。

2008年3月発行「共に歩まん」より